「一生懸命泳いでいるのに、隣のレーンの人が軽く泳いでいるスピードに追いつけない」
「25mを泳ぎ切ると息が上がってしまい、長い距離を泳げない」
このような悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。水泳は陸上の運動とは異なり、がむしゃらに力を入れても速く進むことはできません。むしろ、水という抵抗の中でいかに「楽に」「効率よく」体を運ぶかが重要になります。
かつて水泳部だった方や、これから本格的に泳ぎたいと考えている方に向けて、闇雲に泳ぐだけでは得られない「質の高い練習方法」をご紹介します。正しいドリル(部分練習)とメニューの組み立て方を知れば、大人のクロールは劇的に進化します。
この記事を読むと分かること
- 水の抵抗を最小限に抑え、楽に進むための基本姿勢
- 水泳部でも実践されている、フォーム矯正のための具体的なドリル練習
- 1時間で効率よく泳力アップを目指す練習メニューの組み方
- タイムが伸び悩んだ時に見直すべきポイント
クロールが劇的に変わる「基本姿勢」の作り方
クロールを速く、楽に泳ぐために最も重要なのは、筋力ではなく「姿勢」です。水の中では、空気中の約800倍もの抵抗を受けると言われています。どれほど強力なエンジン(筋力)を持っていても、車体(姿勢)が空気抵抗を受けやすい形状であれば、スピードは出ません。
まずは推進力を生む前に、ブレーキとなる「水の抵抗」を減らす姿勢作りから始めましょう。
水の抵抗を最小限にするストリームライン
水泳の基本であり、最速の姿勢と呼ばれるのが「ストリームライン(けのび)」です。壁を蹴ってスタートした直後の、一直線に伸びた姿勢を指します。この姿勢が崩れていると、泳いでいる間常に水の抵抗を受け続けることになります。
理想的なストリームラインを作る手順は以下の通りです。
- 両手を重ねて頭の上に伸ばし、二の腕で耳を挟むようにします。
- 手のひらだけでなく、指先までピンと伸ばし、重ねた手は離れないように固定します。
- お腹を少しへこませるイメージで、背中が反りすぎないように注意します。
ポイントは、体を一本の細い棒にするイメージを持つことです。鏡の前で腕を上げてみて、頭や肩が出ていないか確認してみてください。プールに入った際、まずは壁を蹴ってけのびだけで5メートル以上進む練習を繰り返しましょう。
長く泳いでも疲れない脱力のコツ
初心者にありがちなのが、沈まないようにと体に力が入りすぎている状態です。人間の体は、肺に空気が入っていれば自然と浮く構造になっています。逆に筋肉に力が入り緊張状態になると、体は硬くなり沈みやすくなります。
水面で力を抜くためのコツは「水に体を預ける」感覚を持つことです。布団の上に寝転がるようなイメージで、水面に対してフラットに体を横たえてください。
特に肩周りの力みは、腕の回転を妨げ、すぐに疲労を招きます。リカバリー(腕を水上から前に運ぶ動作)の瞬間は、指先の力を抜き、腕の重さを利用して前に落とすような感覚を持つとスムーズに回ります。
水泳部でも実践するフォーム改善ドリル3選
ただ長い距離を泳ぐだけでは、悪いフォームを固めてしまう恐れがあります。水泳部などの競泳練習では、動きを分解して課題を修正する「ドリル練習」を重視します。
ここでは、クロールの弱点を克服するための代表的なドリルを3つ紹介します。
推進力を足から生み出す板キック
クロールの土台となるキック(バタ足)を強化する練習です。ビート板を使って上半身を浮かせ、足の動きだけに集中します。
多くの人は膝を曲げて水面を叩くようなキックになりがちですが、これでは推進力は生まれません。以下の点を意識して練習してください。
- 太ももの付け根から動かす:膝下だけで打つのではなく、股関節から脚全体をムチのようにしならせて動かします。
- 足首の力を抜く:足首を固めず、ブラブラとリラックスさせた状態で水を後ろへ蹴り出します。
- 水中に泡を作らない:水面をバシャバシャ叩くのではなく、水面直下で重い水を押し出すイメージです。
まずは25mを疲れずに一定のリズムで打ち続けられるようになりましょう。
丁寧な手の入水を覚えるキャッチアップ
「キャッチアップ」は、左右の手を頭の前で揃えてから、次のストロークを始める練習法です。常に片手が前に残っている状態を作ることで、体が安定し、長く伸びる感覚を養えます。
具体的な手順は以下の通りです。
- 左手を前に伸ばした状態で、右手をかき始めます。
- 右手が一周して戻ってくるまで、左手は動かさずに前で待機します。
- 右手が左手に触れる(追いつく)タイミングで、今度は左手をかき始めます。
このドリルを行うことで、手が前にある時間(グライド)を長く保てるようになります。結果として、ストローク数が減り、効率よく進むクロールが身につきます。
息継ぎの苦手を克服する片手クロール
片手だけでクロールを行い、もう片方の手は体側に添えておく、または前に伸ばしておくドリルです。呼吸動作と体のローリング(回転)のタイミングを合わせるのに最適です。
息継ぎが苦手な方の多くは、顔を上げようとして頭を持ち上げてしまいます。頭が上がると下半身が沈み、失速の原因となります。
片手クロールでは、以下の点に注目します。
- 横を向く意識:顔を上げるのではなく、首を回して横を見るだけで呼吸します。
- 肩の入れ替え:呼吸をする際、かいている側の肩を下げ、反対側の肩を水面上に出すローリングを使います。
左右それぞれ25mずつ行い、呼吸がスムーズに行える側と苦手な側の違いを確認しながら修正していきましょう。
1時間で効率よく泳ぐ練習メニューの組み方
市民プールなどで泳ぐ際、適当に泳いで終わりにしていないでしょうか。限られた時間で成果を出すためには、目的を持ったメニュー構成が必要です。
ここでは、トータル1時間(約1,500m)を目安とした、中級者向けの練習メニュー例を紹介します。 パート 内容 距離×本数 目的 W-up ゆっくりクロール 200m × 1 体を水に慣らす Kick 板キック 50m × 4 脚力の強化 Drill キャッチアップなど 25m × 8 フォーム修正 Main インターバル練習 50m × 10 心肺機能・持久力 Down リラックススイム 100m × 1 クールダウン
怪我を防ぎ体を温めるウォーミングアップ
最初から全速力で泳ぐのは怪我のもとです。W-up(ウォーミングアップ)は、水温や水の感覚を確かめながら、筋肉をほぐすために行います。
心拍数を急激に上げないよう、会話ができる程度のペースでゆっくりと泳ぎます。ここではフォームを気にしすぎず、気持ちよく体を伸ばすことを優先してください。
心肺機能を高めるインターバルの基礎知識
メニューの中核となるのがMain(メイン)練習です。ここで取り入れたいのが「インターバル(サークル)練習」という考え方です。
例えば「50mを1分15秒サークル」という場合、50mを泳いで壁に到着した時間が1分00秒であれば、残りの15秒間が休憩時間となります。そして1分15秒が経過したら、すぐに次の1本をスタートします。
休憩時間を管理し、脈拍が完全に下がりきる前に次を泳ぐことで、心肺機能が効率よく強化されます。最初は「泳ぐ時間+休憩15~20秒」程度になるよう設定してみましょう。
スピードとフォームを定着させるメイン練習
メイン練習では、ドリルで意識したフォームを保ちつつ、ある程度のスピードを出して泳ぎます。疲れてくるとフォームが崩れがちですが、そこを堪えて正しい泳ぎを維持することが上達への近道です。
もし10本続けるのが厳しい場合は、5本で一度長めの休憩を入れても構いません。最後までフォームを崩さずに泳ぎ切れる本数やサークル設定を見つけることが大切です。
タイムが伸び悩んだ時のチェックポイント
練習を重ねてもタイムが縮まない、あるいは以前より疲れやすくなったと感じる時期が来るかもしれません。そのようなスランプに陥った時、多くのスイマーがつまずいているポイントがあります。
基本的な2つのポイントを見直すだけで、泳ぎが劇的に改善することがあります。
下半身が沈む原因は目線と頭の位置
「足が沈んで進まない」という悩みの多くは、実は頭の位置に原因があります。人間の体はシーソーのようになっており、頭が高く上がると、その分だけ足は下がります。
前を見ようとして目線が上がっていませんか。プールの底、あるいは少し斜め前を見る程度に留め、頭頂部が水面ギリギリに出る位置をキープしてください。頭を水中にしっかり入れることで、浮力が働き、自然と腰や足が浮き上がってきます。
重たい水をしっかり捉えるキャッチの感覚
腕を回しているのに進まない場合、水をつかめていない(キャッチできていない)可能性があります。手が入水した後、すぐに下へ押してしまうと水は逃げてしまいます。
入水したら、まずは肘を少し高い位置に保ち、手のひらと前腕全体で水を抱え込むようにします。これを「ハイエルボー」と呼びます。巨大なボールを抱えて後ろへ放り投げるようなイメージを持つと、しっかりと重たい水を捉える感覚がつかめるはずです。
よくある質問
水泳の練習に関して、初心者の方からよく寄せられる疑問にお答えします。
Q. 息継ぎで水を飲んでしまい苦しいです
息を吸うことよりも「吐くこと」に意識を向けてみてください。水中で鼻からしっかりと息を吐き切っていないと、顔を上げた瞬間に新鮮な空気を吸い込むことができません。「水中で鼻からブクブク吐き、顔を上げたらパッと吸う」リズムを練習しましょう。
Q. 毎日練習しないと上手くなりませんか?
いいえ、週に2~3回程度の練習でも十分上達します。毎日泳いで疲労を溜めるよりも、一回一回の練習で集中してフォームを意識する方が効果的です。筋肉の回復を待つ休息日もトレーニングの一部です。
Q. キックが進まないのですが、足ひれを使っても良いですか?
はい、足ひれ(フィン)の使用は非常に効果的です。フィンを使うと推進力を体感しやすく、正しい姿勢を保ちやすくなります。フィンの感覚を体に覚え込ませてから、外して泳ぐという練習もおすすめです。
水泳は「習うより慣れろ」と言われることもありますが、大人になってからの上達には「頭で理解して体で実践する」プロセスが欠かせません。
今回ご紹介したストリームラインの意識や、基本のドリル練習を取り入れるだけで、水中の景色は変わります。まずは次回のプールで、ウォーミングアップの後に「けのび」の距離を測ることから始めてみてはいかがでしょうか。
水に乗る感覚をつかみ、心地よく泳ぎ続けられる楽しさをぜひ体感してください。